狒々門の奥の入江のむじな島にて。

大猿の如きものを連れた天人らしきものを見たあの日から、ぼくはずっとここにいます。

砂浜で虐待を受けている小瘡魚と、海の底にある龍宮の主たる瘡魚王謁見日記。

海のすぐ近くに移り住んでから十ヶ月が経とうとしている。

 

移住を決めるまで、まさか自分が海の近くで暮らすことになるとは思ってもみなかったが、もし海の近くに住んだらやってみたいことがあった。

 

海で魚を釣ってきて、捌いて、毎日の晩酌のツマミにすること。

 

それが現実になる日がやってきた。

 

よし、釣りをするぞ。

 

移住してすぐに一番安そうな初心者向け釣り竿セットをAmazonで購入し、とある日に海に出かけて日がな一日釣りをしてみた。

 

 

ルアーやワームをつかった釣りをするのはそれがはじめてだった。

 

サビキやミミズやゴカイでの釣りは何度かやったことがあって、その感覚はなんとなくわかっていたのだけれど、ルアーやワームの感覚が一切わからないまま海辺に一日立ち尽くして、一匹も釣れなかった。

 

それからはまったく釣りをせずに、釣り竿にホコリが被った頃、約九ヶ月が過ぎて再び釣りに挑戦してみた。

 

季節も移ろったし、もしかしたら超初心者のぼくでも何かしら釣れるかもしれない。

 

夕暮れどきに釣りをはじめて一時間ほど、ワームでカサゴが10匹も釣れた。

 

でも、カサゴしか釣れなかった。いろんな魚が泳いでいるのは見えるんだけれど、カサゴ以外はまったく釣れない。

 

カサゴの姿はまったく見えないのに、カサゴは釣り上がる。

 

そしてカサゴから針を外す際に、何度かトゲにやられて負傷して流血した。

 

それでも、魚が釣れてちょっとうれしくて、小さなバケツに山盛りのカサゴを持ち帰って、エラと内蔵と背びれを取って、アクアパッツァにしたらすごく美味しかった。

 

でもカサゴしか釣れないのは、ちょっと飽きが来そうだなあと思いつつ、おいしいスープがとれるので次の日も釣りに出かけた。

 

やはりカサゴしか釣れなかった。

 

どうやったら他の魚が釣れるんだろうかとぼんやり海を眺めつつ、ここで一句。

 

水底の 龍宮追えど 瘡魚渦

みなそこの りゅうぐうおえど かさごうず

 

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いつかカサゴ以外が釣れるといいな。

 

今週のお題「575」