狒々門の奥の入江のむじな島にて。

大猿の如きものを連れた天人らしきものを見たあの日から、ぼくはずっとここにいます。

21時48分からの出来事。

現在、21時48分。

 

30分ほど前に家の中でちょっと恐ろしいことがあったのだけれど、たったひとりで家にいるぼくには誰にも話せないから、ひっそりとここに記す。

 

ぼくの今住んでいる家は借家で、2階建てのかなり大きな一軒家であり、とある限界集落にある20年間まったく人が住んでいなかったという物件、ボロボロの上級と言える。

 

ここにもう八ヶ月住んでいるので、もちろん住めないことはないのだが、「住めない人には住めない」というレベルだと思う。行政を通じて探し当てた物件で、内見の際、担当者は「ここで大丈夫ですか・・・? 私は住めないと思いますが・・・」と言っていた。そもそも、担当者が「ここは住めないだろ」と思う物件を紹介するな、アホか。そこが行政のクソたる所以である。

 

で、なんとか住んでいるんだけれど。

 

今日は天候が不順で、晴れ間と嵐が交互にやってくるような日であった。ちょっと前までは風もかなり強く嵐のような具合で、ボロボロの家のあちらこちらで、家が徐々に崩れゆくような音が響き渡った。

 

19時くらいから二階の一室で食事を始めると、しばらくして玄関を拳で叩くような音が聞こえた。ずいぶんな田舎なので、しかも家にはチャイムなど付いていないので、訪問者は玄関で声をあげるか、ドアをガンガンとノックするか、人によってはドアノブをガチャガチャと回して入ってこようとする。

 

誰か来たのかと思い、階段を駆け下りて玄関の扉を開けるが、誰もいない。

 

風が強かったので、その煽りで戸を叩いているような音がしたのだろうと思い、再び食事を再開する。

 

しばらくしてから、家の階段を明らかに誰かが駆け上がってくる音がこだまする。

 

ゾッとする・・・。

 

食事の手を止め、しばらく体を硬直させる。

 

強い風の音と、パラパラと降り続く雨が窓を擦る音しか聞こえない。

 

毎日上り降りをしている階段、音を聞けばそれが階段を上がってくる音だということが明らかにわかる。

 

どうしたものかと考える。

 

食事をしている部屋の扉を開けるとすぐに階段である。ただ、その扉をすぐに開けることが躊躇われた。だって、ぼくしかいないこの家の中で階段を駆け上がってくる存在なんていないのだ・・・。

 

いろんなことを無視して、食事を続ける。

 

しばらくして、隣の部屋からなにかの気配が感じられるような気がしてならない。

 

二階の、食事をしている部屋の隣はずいぶん広い畳張りの部屋になっているのだが、家自体が広いのでその畳張りの部屋はほとんど使っていない。

 

ふすまもボロボロに破れて、畳もかなり傷んでいて、わけのわからない掛け軸があったり、おかしな収納があったりする、廃墟のような空間。居住空間の中にそういう場所があるってこと自体が、よく考えればちょっと怖いんだけれどさ。

 

ぼくが食事をしている部屋からその畳張りの部屋には、小さなガラス窓の付いた扉でつながっている。階段は、その外側の廊下で畳張りの部屋とつながっている。

 

ぼくはいま、食事をしている部屋に置いてあるPCでこの記事を書いているのだが、となりの畳張りの部屋から明らかに足音が聞こえる。

 

そして、これって、笑い声だよね・・・。

 

いまここ。

 

こわい。

 

お題「我が家のここが好き」